建設業界で注目を集めているBIMですが、これに合わせて土木事業者の間でも導入が進んでいる技術がCIMです。最近ではBIM/CIMという表現で二つの概念をひとまとめにする傾向がありますが、そもそもこれらはどのような技術を指す言葉なのでしょうか。
この記事では、そんなCIMの概念についてわかりやすく紹介しながら、CIMがもたらす土木事業者へのメリットや、具体的な活用方法について、詳しく解説します。
CIMとは
CIMはConstruction Information Modelingの略称で、主に土木建設における3Dモデリング技術の活用による業務効率化の取り組みを指す言葉です。
BIMの概念を元に国土交通省が提唱を始めた言葉で、建設業界で用いられている次世代の3Dモデル活用を、土木建設の領域でも積極的に活用しようということから、CIMの概念が誕生しました。
BIMもCIMの概念も次世代の3Dモデル技術をフル活用して業務をデジタル化し、DXを推進する上で欠かせないものとして、多くの事業者の間で注目されています。
BIMとCIMの違い
BIMとCIMは元々異なる概念として扱われてきましたが、もとを辿ると同じような意味を持つ言葉であることがわかります。
そもそもBIMは海外から輸入された概念であり、日本を含め世界各国で親しまれている一方、CIMはBIMの概念を元にして日本で誕生した、国内限定の概念である点に両者の大きな違いが見て取れます。
以下の表では、BIMとCIMでどのような違いがあるのかを簡単にまとめています。
BIM | CIM | |
対象領域 | 建築領域 | 土木領域 |
グローバル性 | あり | なし(日本限定の概念) |
使用するソフト | BIMソフト | 土木対応のBIMソフト、3DCADソフト |
BIMとCIMは次世代の3Dモデリング技術を使った生産性向上を図るという点では共通しているものの、対象領域が異なるという違いがあります。BIMは建物の建築における技術活用を指しますが、CIMはインフラ工事などの土木領域における技術活用を指します。
また、BIMはグローバルな概念であるため、国内外で広く通用する用語である一方、CIMは国土交通省が提言した概念であるため、海外ではあまり知られていない用語です。
海外では建設であれ土木であれ、BIMという言葉が使われています。
最近では日本の大手建設会社が海外の建築事業や土木事業に携わる機会も増えている一方、その際にCIMという言葉を使用しても現地の関係者には伝わらないという問題があります。
基本的な概念は同じである以上、現場に無駄な混乱をもたらさないだけでなく、円滑な海外事業の展開を図る上でもBIM/CIMという一本化は意味のある対応です。
また、BIMとCIMでは微妙に対応しているソフトが異なるという点もポイントです。
BIMにはBIM特化のソフトがいくつかありますが、CIM領域では土木対応のBIMソフトを使用するか、BIMに対応している3DCADソフトを使う必要があるため、BIMとは少し勝手が異なります。
CIM導入が注目される背景
CIMの導入には多くの企業が前向きな検討を始めていますが、その背景には以下の3つの理由が挙げられます。
BIM導入の背景1.デジタル技術の進化と普及
CIMが注目される1つ目の理由は、CIM関連の技術がここ数年で大きな進化を遂げている点です。
CIMの活用には相応のスキルや設備環境が求められますが、それに見合った成果が得られるかどうかが不透明というケースは少なくありませんでした。
しかしコンピュータの進化やXR技術の進化などにより、CIMを導入することで多くの生産性向上効果などが期待できるようになったことから、多少の導入コストを負ってでも整備を進めた方がメリットが大きいと考えられるようになりつつあります。
BIM導入の背景2.慢性的な人手不足
CIMが注目される2つ目の理由は、建設・土木業界が慢性的な人手不足に陥っている点です。
少子高齢化により新しい働き手は減少の一途を辿っているだけでなく、熟練技術者の高齢化による引退も進み、現場で活躍できる人材はどんどん少なくなっています。
設計事務所や建設現場へのCIMの導入は、このような人手不足を解消する上で大きな意味をもたらします。技術活用で生産性を高め、業務を従来よりも少ない人手で遂行できるようになれば、人手不足の解消に悩まされることも少なくなるはずです。
BIM導入の背景3.技術的ニーズの高度化
CIMが注目される3つ目の理由は、世界でハイテク化が進んだことで、高度な技術を伴う建築や土木建設が一般に普及していることから、クライアントが求める技術ニーズも高度になっていることです。従来の工法や設計手法では難しかったクライアントニーズにも、高度な設計能力を有するCIMソフトがあれば対応できます。
CIMソフトは大企業での導入が進み、その一方で中小企業での導入が進んでいないという話もありますが、大企業と中小企業の情報・技術格差を埋める上でも、CIM活用は欠かせない存在となるでしょう。
CIM導入のメリット
それでは具体的に、CIMの導入は事業者にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。
ここではCIM導入の主な3つのメリットを解説します。
CIM導入3つのメリット:業務効率化につながる
CIMを現場に導入する最大のメリットは、業務の効率化です。
具体的な活用方法については後述しますが、従来よりもはるかに少ない負担で業務を進められるようになるため、少人数かつ短い期間で確実にプロジェクトを遂行できます。
既存業務とは著しく業務の進め方が変わることもありますが、その導入効果は大きなものになることが期待できるでしょう。
CIM導入3つのメリット:コスト削減に貢献する
業務へのCIMの導入によって、従来よりも生産性を高めるだけでなく、より小さなコストで業務を進められるようにもなります。プロジェクトをスケジュール通りに進められれば、工期が伸びて工事費がかさむ心配はありませんし、修正対応などで残業や休日出勤の発生に伴う人件費の増大も抑制できます。
CIM導入3つのメリット:働き方改革を推進できる
生産性の向上やコストパフォーマンスの改善に合わせて、働き方改革の推進にも役立つのがCIMの強みです。CIM導入で業務負担を小さく抑えることで、慢性的な残業の発生を回避し、定時退社を促すことができます。
また、近年のCIMソフトの多くはオンラインでの作業にも対応しているものが多く、リモートワークの推進などにも役立てられるのが強みです。働きやすい職場環境を整備して、優秀な人材を確保するきっかけを作ることもできるでしょう。
CIM導入の課題・デメリット
CIM導入により、企業は魅力的なメリットを複数期待することができる一方で、あらかじめ注意しておくべきデメリットもあります。主なデメリットは、以下の2つです。
CIM導入2つのデメリット:導入コストがかかる
まず、CIMは最新技術ということもあり、導入に当たっては相応のコストがかかります。
従来のCADソフトなどでは次世代のCIMに対応することができない上、場合によって、現場で使用しているコンピューターを刷新したり、新たにタブレットなどを施工現場に配布したりするような、ソフト・ハードの両面での刷新が必要です。
いずれのCIM製品も導入価格は決して安くなく、ハードウェアも最新のものだと高額になるため、予算の確保には余裕を持たせる必要があります。
CIM導入2つのデメリット:CIMを扱えるスキルを持った人材が必要
CIMは新しい技術ということもあり、従来のCADなどのスキルだけでは不十分で、新たに研修を行うなどして人材の育成を行わなければなりません。場合によっては外部から新たに人材を確保し、CIMを使うための運用環境を整える必要があるでしょう。
人材の育成には時間がかかるだけでなく、お金もかかります。
これは新たに人材を雇用する場合でも同様で、CIM需要が高まっている現在はそういったスキルを持つ人材のニーズが高く、安価に済ませることは難しいのが現状です。
CIMの主な活用方法
CIMを使うための方法としては、大きく分けて
- 計画・設計
- 施工
- 維持管理
という3つのプロセスに適用可能です。
計画・設計段階では仕様に基づく極めて正確な図面作成や、図面情報を内包する寸法や材質などの細かな情報が適用された3Dモデリングを、シームレスに行うことが可能です。
これまで図面作成と3Dモデリングは別個に行なってきましたが、CIMを活用すれば、3Dモデルの中に全ての情報を記録し、必要に応じて平面図情報を抽出したり、シミュレーションにかけたりして業務を遂行できます。
施工段階においても、CIMソフトは非常に役立ちます。
現場にタブレットを持ち込めば、CIMデータを呼び出すことで紙の図面がなくとも、正確な図面情報を確認することができますし、施工箇所を詳細に確認しながら慎重に作業を進め、質の高い工事を進められるでしょう。
プロジェクトが完成した後の維持管理の段階においても、CIMは高いパフォーマンスを発揮します。点検や補修工事を行う上での図面情報も、設計当初のCIMデータから呼び出すことができ、維持管理のために図面を作成する必要はありません。正確かつ最小限のコストで維持管理業務を実施可能です。
CIMについてのまとめ
この記事では、CIMの概要や導入による具体的なメリット、そして導入に際してのデメリットや活用方法について解説しました。
BIMやCIMは建設業者や土木事業者にとって理想的な最新技術であり、人材不足の解消やDXの推進にとっては欠かせないテクノロジーです。導入に際しては設備コストなどがかかるものの、中長期的に見ればコスト削減に役立つのはもちろん、高度な業務効率化や技術革新をもたらしてくれるため、将来的な導入は免れないでしょう。
まずはできる範囲から段階的にCIMを導入し、自社に最適な運用方法を検討しながら利用することをおすすめします。