製造業や建築業など多彩な分野で注目されているDX。しかし、DXの定義は広いため、「DX人材を育成する」と聞いても、具体的にどんなスキルが必要なのか、育成の方法がわかりにくいと感じる方もいるでしょう。
そこで本記事では、DX人材育成に役立つ研修を17種類紹介します。
IPAが推奨する3つの資格、および資格取得向け研修、さらに、製造業・建築業のDX化をトータルサポートするサービスもお伝えするので、DX人材育成に悩んでいる企業の担当者の方はぜひ参考にしてください。
DX人材とは?

DX人材とは、企業におけるデジタル変革(DX)を推進する役割を担う人材を指します。
具体的には、ITやAIといったデジタル技術に関する知識を持ち、それらを活用してビジネスモデルや組織の仕組みを改善・変革へと導く力を備えた人材のことです。
- DX人材が不足している理由
- デジタル人材との違い
- DX人材が向いている人
①DX人材が不足している理由

DX化が加速する一方で、DX人材の不足は業界の壁を越えた共通の課題です。その背景の一つには、「DX人材として活躍できる人材そのものが限られている」という点があります。
株式会社NTTデータ経営研究所の調査によれば、デジタル技術への親和性が高いとされる20〜40代の社会人の中でも、デジタル人材はわずか10.7%にとどまっていました。
さらに、DX人材は転職市場での流動性が高いため、人材の定着率にも課題を抱えているのです。
DX人材不足の原因は、社会全体の人材不足も大きく影響しています。これは物流業界でも深刻な問題です。
以下の記事では、物流業界で人材不足が続く理由をデータに基づいて詳しく解説しています。DXによる解決事例も紹介しているので、DX化の効果を知りたい方はぜひご一読ください。
②デジタル人材との違い

デジタル人材とDX人材は、どちらもデジタル技術に精通していますが、その役割と目的には明確な違いがあります。
| 項目 | デジタル人材 | DX人材 |
| 役割 |
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| 能力 |
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| 目的 |
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③DX人材が向いている人
DX人材には、高度な技術スキルも重要ですが、それ以上に以下の資質が求められます。
- 行動力:変化を恐れず、新しいことに挑戦する意欲と実行力
- 課題解決能力:複雑な問題の本質を見抜き、解決策を導き出す論理的思考力
- 貢献意欲:個人の成果だけでなく、チームや組織全体の成功に貢献しようとする姿勢
さらに、DXの世界は常に進化しているため、学び続ける力、つまり高いポテンシャルを持ち続けられる人も向いています。
DXを推進するにあたっては、技術を導入するだけでなく、人々の働き方や組織文化そのものを変える必要があります。そのため、技術的な知識はもちろん、その変革をリードし、周囲を巻き込んでいく「人間力」を持った人が最も適しているのです。
DX人材に必要な5つのスキル
DXを成功させるには、高度な専門知識を持つ人材が必要です。ここでは、DX人材に必要なスキルを段階的に解説しましょう。
- DX化に欠かせない5つの業種
- 5つの業種に必要なスキル
①DX化に欠かせない5つの業種

経済産業省が策定した「DX推進スキル標準」では、特に重要な役割を持つ人材を5つの「人材類型」として定義しています。まずは、その5つの業種について見てみましょう。
①ビジネスを動かす人|ビジネスアーキテクト
DXの方向性やゴールを定め、プロジェクト全体を牽引するリーダーです。DXで「何を達成したいか」を明確にし、多様な関係者をまとめ上げる役割を担います。
②ユーザー心理を理解する人|デザイナー
顧客やユーザーの視点に立ち、新しい製品やサービスのあり方をデザインする専門家です。使いやすさや感動を生むデザインを通じて、DXの価値を形にします。
③技術で形にする人|ソフトウェアエンジニア
DXを技術面から支える土台となる存在です。新しいサービスを実現するためのシステムやソフトウェアを、実際に設計、開発、運用します。
④安全を守る人|サイバーセキュリティ
デジタル技術の活用に伴うリスクから、企業のシステムやデータを守る役割です。DXが安全に、そして安心して進められるよう、対策を講じます。
⑤データを操る人|データサイエンティスト
膨大なデータを分析し、ビジネスの課題解決や新たな価値創造につなげる専門家です。データの力で、ビジネスの意思決定や変革を加速させます。
②5つの業種に必要なスキル
続いて、上記の各業種に必要なスキルを表で見てみましょう。
| 業種名 | 必要なスキル | スキルの詳細 |
| ①ビジネスアーキテクト | 企画推進・管理スキル | DXプロジェクトをまとめて成功に導く |
| ②デザイナー | サービスデザインスキル | 顧客視点の魅力的なサービスを考える |
| ③ソフトウェアエンジニア | システム開発・運用スキル | システムやソフトウェアを開発・運用する |
| ④サイバーセキュリティ | リスク管理・保守スキル | デジタル環境のリスクから情報資産を守る |
| ⑤データサイエンティスト | データ分析・活用スキル | データを分析し課題解決や価値創造を実施 |
これらの5つの人材は、それぞれのスキルを発揮しながらも、互いに密接に連携し、協力し合うことで大きな成果を生み出します。まるで、星の五角形のように、中心の「変革」を支え、強化し合う存在です。
DX人材育成を成功させる4ステップ
DX人材の育成と聞くと「難しそう」と感じるかもしれませんが、以下のステップを踏んで進めれば無理なく取り組めます。ここでは、DX人材育成の基本の流れを4つのステップに分けて解説しましょう。
- デジタルの基礎リテラシーを広げる
- 役職ごとに学ぶ内容を変える
- 専門チームを育成・配置する
- 学びを実務につなげる
①デジタルの基礎リテラシーを広げる
まずは、社員全員にデジタルの基礎リテラシーを広げることから始めましょう。これまでは「IT部門だけが詳しければ十分」と認識されてきましたが、社内でDXを進めるにはその意識から変えてください。
そのためには、営業や総務、現場スタッフまで、誰もがデジタルを理解し活用できなければいけません。例えば「クラウドって何?」「AIはどんな場面で使えるの?」といった基礎知識を、全員が共有できる状態がゴールです。
②役職ごとに学ぶ内容を変える
次に、役職ごとに学ぶ内容を変えていきます。例えば、以下の様に変化させてみましょう。
| 経営層 | AI・クラウド・ブロックチェーンなどの主要技術を押さえ、投資や経営判断に活かす |
| 中間管理職 | 自部門の業務効率だけでなく、他部署とのデータ連携や全体最適を考える |
| 現場社員 | 専門知識までは不要。日常の業務でツールを使いこなせる状態 |
必要なスキルは立場によって異なるため、全社員統一で進めないことが重要です。
③専門チームを育成・配置する
続いて、専門チームを育成・配置しましょう。DX人材育成において、全員がAIやデータ解析のプロになる必要はありません。
例えば、高度なスキルを持つ人材でDX推進部門や専門チームを作り、社内の相談役・支援役として機能させてください。現場に相談できる部署があると、スムーズに活用が広がります。
④学びを実務につなげる
最後に、ITやAIの学びを実務につなげていきましょう。研修で得た知識は、やはり実践を通じて一人ひとりに定着していくものです。
まずは、それぞれが身近な改善にチャレンジし、成功体験を積み重ねることからスタートしてください。その過程での試行錯誤は、DX人材へと成長するための重要な過程です。
自分の力でやり遂げたという実感を得ることが、次のステップへの大きな自信となるでしょう。
DX人材育成に不安なときはプロからトータルサポートを受けよう
DX人材育成のポイントをお伝えしましたが、「やはりDX人材育成は自社にとってハードルが高い」「そんなに簡単にDX人材育成が進むと思えない」と感じられたかもしれません。
そんな時は、プロのサポートで効率的かつ確実な人材育成を実現しましょう。
DX・AI人材育成研修サービスは、製造業や建築業に強いプロが、最新のDXを取り入れて包括的・効果的にサポートします。アウトプットを重視した実践的な研修なので、現場が目に見えて変わるのを実感できるでしょう。
サービスでは、まず貴社のDXレベルを可視化し、その結果から最適な育成プランをご提案いたします。詳しいサポートについては、以下のページでぜひご確認ください。
DXスキルマップは、多くの企業がDX人材育成を効率化するために策定しています。DX人材スキルマップについては以下の記事で詳しく解説しているので、DX人材育成を成功させるためにもぜひご一読ください。
IPA推奨のDX人材向け資格

DX人材育成の指針となるのが、デジタルリテラシー協議会が定義する「Di-Lite(デジタル・リテラシー・スタンダード)」です。
Di-Liteは、IPA(情報処理推進機構)をはじめとした3団体が参加し、経済産業省がオブザーバーを務めて策定された「デジタルリテラシー協議会」が定義した指針です。
Di-Liteは、以下の3つの領域で定義されています。
②数理・データサイエンス
③ITソフトウェア
上記のスキルを証明する資格として、「G検定」「データサイエンティスト検定」「ITパスポート試験」の3つが推奨されています。ここでは、この3つの資格をご紹介しましょう。
| 資格名 | 特徴 | 主な対象者 |
| G検定 | ディープラーニングの事業活用 | AI活用をしたい非エンジニア |
| データサイエンティスト検定 | データ分析による課題解決 | データ分析を活かしたい人 |
| ITパスポート試験 | ITの基礎知識を証明する国家資格 | 全ビジネスパーソン |
①G検定(JDLA Deep Learning for GENERAL)
G検定は、AIジェネラリスト向けの資格です。AIの広範なスキルを問われるため、IT部門だけでなく、営業や企画など、非エンジニアの方にも推奨されています。
AIの日新月歩の進化に合わせ、試験には常に最新のトレンドが反映。さらに、国内最高峰のAI資格・E資格の登竜門的資格としても人気を博しています。
短期で効率的に合格を目指せる!G検定対策講座
G検定対策講座は、最短での合格を目指せる内容です。G検定合格に必要なAIの基礎知識から機械学習アルゴリズム、ニューラルネットワークの仕組み、さらに本番さながらの模擬試験まで、幅広くカバーしています。
完全自社開発により、低価格での提供を実現。合格まで専門スタッフが徹底サポートするおすすめのカリキュラムです。
セミナー名 G検定対策講座 運営元 GETT Proskill(ゲット プロスキル) 価格(税込) 38,500円〜 開催期間 1日間 受講形式 対面(東京)・ライブウェビナー・eラーニング
②データサイエンティスト検定リテラシーレベル(DS検定)
この資格は、データ分析をビジネスに活用したい人向けです。AIや統計学、プログラミングなどの基礎知識に加え、ビジネス課題を解決するためのデータ活用に焦点が当てられています。
基礎から高度な専門スキルまで4段階で構成されており、検定を通じて、データサイエンティストに必要な幅広いリテラシーを効率的に学ぶことができます。
③ITパスポート試験(iパス)
ITパスポート試験は、IT専門家以外でも持っておきたい、ITに関する基礎的な知識を証明する国家試験です。DXを進める上で、自社の業務にITをどう活用するかを考えるのに役立ちます。
ビッグデータやAI、IoTなど、最新の技術トレンドも出題範囲に含まれており、これからDXを学ぶ人にとって最初のステップに最適です。一発合格を目指すなら、短期集中でITパスポート試験対策できるセミナーの受講もおすすめです。初学者が躓きがちなITテクノロジやITストラテジ対策も、ポイントを抑えて効率よく学べます。
| セミナー名 | ITパスポート試験対策セミナー |
|---|---|
| 運営元 | GETT Proskill(ゲット プロスキル) |
| 価格(税込) | 58,300円〜 |
| 開催期間 | 2日間 |
| 受講形式 | 対面(東京)・ライブウェビナー・eラーニング |
DX人材育成おすすめ研修16選

では、DX人材育成におすすめの研修をご紹介しましょう。ここでは、主な特徴を一覧表にまとめてお伝えします。
| 研修名 | 主な特徴 |
| AIエンジニア育成講座 |
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| DX完全攻略セミナー |
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| exaBase DXアセスメント&ラーニング |
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| インターネットアカデミーのDX研修 |
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| リンクアカデミーの i-Company Learning |
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| インソースのDX研修 |
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| WACULのDX研修サービス |
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| 株式会社コーナーの人材育成アウトソーシング |
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| 株式会社グロービスのDX人材育成研修 |
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| DMMの生成AI研修 |
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| ホリエモンAI学校 |
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| JMAM 日本能率協会マネジメントセンター |
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| Cloud CampusのDX人材の育成|ITスキル研修 |
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| WinスクールのDX人材育成分野 |
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| NECビジネスインテリジェンス |
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| カナン株式会社のDX人材育成研修 |
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DX人材育成におすすめの研修の選び方
数多くのDX人材研修サービスがある中で、「自社に最適な研修をどう選べば良いのか」と迷う方も多いのではないでしょうか。失敗しないためには、以下のポイントを押さえて検討することが大切です。
- 複数社から見積もりを取る
- 自社のニーズを明確にする
- レベルや対象者に合わせて選ぶ
- トータルサポートを活用する
①複数社から見積もりを取る
DX人材研修選びでは、必ず複数社の見積もりを比較しましょう。
多くのDX人材研修はカスタマイズ制で、公式サイトに料金や期間が明記されていません。各企業の状況に応じて内容を最適化する仕組みのため、ヒアリング後に個別見積もりを作成する流れとなります。
1社のみでは妥当性を判断できないため、複数社から見積もりを取り、研修内容や価格を比較することが大切です。
②自社のニーズを明確にする
DX人材研修選びの際は、まず自社のニーズを明確にしておきましょう。短期集中型を望む場合は、AIエンジニア育成講座やDX完全攻略セミナーなど、料金や期間が事前に提示されている研修がおすすめです。
一方で組織全体のDXレベル向上を目指すなら、exaBase DXアセスメント&ラーニングや、年間26,000人以上が受講するインソースの研修プログラムといった包括的な研修が適しています。
③レベルや対象者に合わせて選ぶ
DX人材育成は、受講者の立場やレベルに応じて内容を変えることが必要です。例えば、以下のような感じで柔軟性をもって選びましょう。
- 経営層:MBA保有者による経営視点のグロービスのDX人材育成研修
- 非エンジニア:プログラミング不要で学べるホリエモンAI学校
- 初心者:基礎から学べるAIエンジニア育成講座やDX完全攻略セミナー
まずは「誰が受講するのか」を整理し、その対象に合ったプログラムに的を絞ってください。
④トータルサポートを活用する
もしDX人材研修の選び方に迷う場合は、トータルサポート型サービスの活用も有効です。
DXレベル診断から教育体制のコンサルティング、研修実施まで一貫支援するサービスであれば、自社の状況を可視化し、最適な人材育成計画を立てられます。
DX・AI人材育成研修サービスでは、DX人材育成に迷う製造業・建築業の企業様に対して包括的な支援を行っております。
数々の現場を経験したコンサルタントが直接対応し、他社事例や自社の状況をもとにした無料アドバイスも提供されるため、ぜひ以下のページからお気軽にご相談ください。
DX人材育成の成功事例
では、最後にDX人材の成功事例を見てみましょう。ここでは、自治体や建築・製造業から3社ピックアップしてお伝えします。
| 自治体・企業名 | 課題 | 解決方法 | 結果 |
| 金沢市 | DXリテラシー不足 | 全職員研修とDXリーダー育成 | リーダーを配置し業務改革 |
| 中原建設 | 非効率な手作業 | BIM/CIMでデジタル化 | 測量時間削減、若手活躍 |
| アサヒグループ | デジタル人材不足 | 専門家採用と社員研修を強化 | 9,000人が基礎講座を修了 |
①金沢市が取り組む全庁的なDX人材育成
まずは、金沢市が行った、全庁的なDX推進に向けた「デジタル行政推進リーダー」の育成を見てみましょう。
金沢市がDX人材育成をスタートしたのは2021年。以降、管理職を含む約2,000人の全職員向けデジタル研修に加え、30代の若手職員を対象としたリーダー育成研修に取り組んでいます。
200時間に及ぶ研修では、ツールの習得ではなく、市民目線の課題解決を促す「サービスデザイン思考」を重視。将来的には100人のリーダーを各部署に配置し、業務の抜本的な変革を目指しています。
参照:自治体DX参考事例集
②デジタルで建設現場の課題解決を目指す中原建設
次は、埼玉県川口市に本社を置く中原建設のDX人材育成事例です。
当社は、建設現場の課題を解決するため、BIM/CIM技術やドローン、レーザースキャナーを活用し、測量時間を半減させるなどの作業効率化に成功しました。
これにより、ミスや手戻りも削減し、さらにベテランと若手の経験の差に左右されない均一な品質での施工も実現。ペーパーレス化やリモート会議の導入により文系出身の女性も活躍するなど、人材育成と働き方改革の両面で成果を上げています。
③社員が変革を担う「デジタルネイティブ組織」に取り組むアサヒグループ
続いて、国内大手飲料メーカーのアサヒグループのDX人材育成を見てみます。
アサヒグループホールディングスは、DX推進のため、社員を「デジタルネイティブ組織」へと変革することに注力しています。これは、誰もがデジタルを使いこなし、自律的に動ける企業文化育成を目指すものです。
この目標に向け、外部の専門家を招きつつ、社員向けの研修も強化。データ活用の民主化とアジャイルな働き方を促す研修を実施し、これまでに9,000人もの社員が基礎講座を修了しました。
DX人材についてまとめ
DX人材育成は高いハードルに感じがちですが、実際に進めてみれば道筋は見えてくるものです。
ぜひ、今回ご紹介した17の研修を参考に、ニーズに合ったDX人材育成をスタートしてみてください。それでも迷ったときは、DX化をトータルサポートしてくれるサービスも検討してみましょう。