建築業務を効率化する「BIM」の導入を検討している人も多いでしょう。
ですが、そもそも何に利用できるのか分からず、お困りの方もいるはずです。
また、最新の動向を追えていない方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、BIMの建築事例と国土交通省やゼネコンの最新動向についてまとめました。また、BIM建築エンジニアとしてやるべきことも紹介しているので、BIM導入目的を検討する参考にしていただけると幸いです。
BIM建築とは?
BIM建築とは、いまや建築業界に必須となる図面作成・管理に関わるワークフローです。3Dモデル活用をベースとして、以下の項目を効率化するために、国土交通省が主体となり導入を推進しています。
- 図面作成の効率化
- 数量算出の自動化
- 分析・シミュレーションの品質向上
また、BIM建築の考え方は国土交通省でルール化が進められている状況です。すでにBIM建築業務の発注もスタートしていることから、今後の建築業界ではBIM導入が必須になっていきます。
BIMの概要から詳しく知りたい方という方は、以下の記事がおすすめです。
BIMの最新建築事例
すでにBIMの取り組みはさまざまな建築業務で活用されています。
その中でも2023年直近の最新事例を5つまとめました。
事例 | 詳細情報 |
富士山世界遺産センターにおける高難度の施工 | 構造設計として活用 |
名古屋城木造天守閣の3Dモデル化による木造復元 | 構造物復元および構造解析として活用 |
新築の生産施設を対象とした省エネ効果の見える化 | CO2排出量の自動算出として活用 |
技術研究施設における維持管理業務の効率化 | 維持管理ワークフローの策定に活用 |
BIMを活用した建築生産 維持管理プロセス円滑化 |
モデルビジュアライゼーションによる合意形成に活用 |
どういった業務に適用できるのか、またどんな技術が活用されているのか、参考にしていただけると幸いです。
事例①富士山世界遺産センターにおける高難度の施工
静岡県にある展示施設「富士山世界遺産センター」の竣工として、構造設計にBIMの技術が活用されました。当事例では、打ち合わせ段階からBIMモデルを構築し、鉄骨構造と木材の干渉チェック、設備の検証等が実施されています。
また、複雑な構造に対する2D図面の品質低下や原価流出のリスクを避け、工程の遅延や原価流出を抑制できたこと、また複雑な曲線構造の木材建築を効率化できたことから、高い評価を得られています。
事例②名古屋城木造天守閣の3Dモデル化による木造復元
愛知県名古屋市にある「名古屋城天守」の老朽化問題を解決するために、意匠・構造・加工・材料調達・施工としてBIMの技術が活用されました。
1612年に建築された名古屋城は、建築当初からの建築資料が保管されています。そのデータをもとに3Dモデルを再現し、具体的な劣化位置を分析、また構造解析を実施して耐震性の確保が検討されました。
あわせて作成した3Dモデルをベースに足場計画を立てるなど、設計検討〜施工すべてにBIM技術をワンストップで適用された事例です。
事例③新築の生産施設を対象とした省エネ効果の見える化
新築生産施設の建築を目的として、施設全体の省エネ効果の分析のためにBIM技術が活用された事例です。施設全体を3Dモデルで構築し、使用材料データをベースとしてCO2排出量を自動算出して環境配慮が計画されました。
省エネ効果をビジュアライズすることによって、発注者との合意形成を得やすくなるほか、2D図面の課題だった数量集計表のみによる省エネ判断を回避できます。また、3Dモデルの作成に伴い、空調設備の配置等の意思疎通が効率化しています。
事例④技術研究施設における維持管理業務の効率化
既存技術研究施設の維持管理の効率化を目指すために、BIM技術を用いたワークフローの効率化を図った事例です。
BIMモデルの作成はもちろん、その他BIM連携ソフトを活用することによって、維持管理のワークフローを作成、改修工事や増改築工事の長期計画が下図のように整理されました。
BIM技術を活用して情報を可視化できたことから、専門職以外の担当者でも内容を把握しやすくなりました。また、属性情報を割り当てることによって、どの設備をいつメンテナンスすべきかを手軽に把握できるようになったのが事例の特徴です。
事例⑤BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化
株式会社アンドパッドによって、BIM技術を用いて建築検討および維持管理プロセスの円滑化を実施した事例です。
建築物の外観レイアウト検討はもちろん、4D技術のひとつである日射遮蔽分析を組み合わせつつ、快適環境が検討されました。
建材や外装のデータを作成・分析することによって、現実的な意匠検討を行えます。また、3Dモデルをベースに材料調達を計画できるため、施工を見越した建築設計の検討に活用可能です。
BIM建築における国土交通省の最新動向
BIMが日本にやってきたのは2009年であり、既に14年が経過しています。また、BIMの取り組みや計画は1年足らずで激変している状況です。
そこで、2023年最新のBIM建築の動向を3つのポイントからご紹介します。
2027年度|図面整合性チェックを不要に
これまで、BIMデータと出力した2D図面との整合性を確認するために、審査が実施されていました。これに対し、2027年からは、時間のかかる整合性審査が省略され、業務効率化を図りやすくなります。
赤黄チェックなど、手作業での確認から解放されるため、大幅な時間短縮が可能です。
2027年度|属性情報のルール確立・実装
これまでは、BIMデータの属性情報のルールがあいまいであり、各企業が任意で属性情報を与えていました。これに対し、2027年までには、属性情報のルール確立・実装が完了する予定です。
業務間におけるデータ連携が整備されつつあるほか、ルール確立に伴いBIMデータ作成の効率化を期待できます。
2024年度|建築BIM加速化事業の実施
2023年度の補正予算において「建築BIM加速化事業」に国費80億円が充てられました。当プロジェクトは、建築BIM活用の事業者拡大を拡大することが目的であり、BIM建築業務において補助金等が割り当てられます。
2024年1月16日より事業者登録がスタートし、次の条件で補助を受けられる予定です。
- 基本設計・実施設計・施工のBIMモデル作成が補助対象となる
- BIMモデル作成に要する費用に対して補助がある
- 協力会社・元請け事業者も補助対象となる
お得にBIM業務をスタートできる魅力的なプロジェクトです。現在BIM導入を検討している方がいらっしゃるのなら、ぜひ建築BIM加速化事業を活用してみてください。
BIM建築は普及しない?ゼネコンの最新動向を紹介
複雑な操作、豊富な知識が必要となるBIM建築は「今後普及しない」と噂されています。その一方で、国土交通省からは2023年以降の原則BIM導入がうたわれている状況です。
では、どちらの発言が正しいのでしょうか。ここでは、建築業界を引っ張るゼネコンの動向を基に「BIM建築が普及する理由」について紹介します。
スーパーゼネコンはすでに導入・運用中
BIM建築は既に、次に示すスーパーゼネコンで導入・運用がスタートしています。
- 清水建設
- 大林組
- 大成建設
- 竹中工務店
- 鹿島建設
実際に業務に適用されているBIM技術も多く、設計・施工・維持管理など多方面でBIMの機能が利用されています。国の業務としてBIM関連業務が発注されていることも含め、今後、業務発注数が拡大していくと予想可能です。
ゼネコン本格始動により今後はBIMが必須に
ゼネコンのBIM建築本格始動に伴い、すでに次のような取り組みがスタートしています。
- 建築プロジェクトのデジタル化(鹿島建設)
- BIMデータの統合を行うOSの開発(大成建設)
- BIMデータを構造計算に活用(清水建設)
既に業務適用が可能であると確認されているため、BIM浸透が目前に迫っているといえます。他企業に後れを取らないことはもちろん、BIM業務への早期対応のため、ぜひBIM建築の知識収集・ソフト導入を検討してみてください。
将来に向けたBIM建築エンジニアとしてやるべきこととは?
今後BIM建築エンジニアとしての人材を生み出すためには、次のような行動が必要です。
- 国土交通省の講習会に参加してBIM最新動向のチェック
- BIM関連セミナーへの参加による知識・技術の習得
- BIMソフトの導入による技術力の向上
BIM建築は、従来のCADとは異なる考え方で操作しなければなりません。スムーズに業務に取りかかるためにも、知識や技術を習得してみてください。
BIM建築についてのまとめ
今回は、BIM建築の事例、最新動向、そして業界におけるBIM導入・運用状況についてご紹介しました。
BIM建築は今後の建築業務において欠かせない技術です。運用ルール等の整備も進んでいることから、ぜひこの機会にBIMソフトの導入、セミナーへの参加を検討してみてください。