階段の設計をするにあたり準じなければならないのが「建築基準法(建築基準法施行令)」です。
しかし、どのような寸法の基準が設けられているのかよくわからないとお悩みの人も多いでしょう。
そこでこの記事では、建築基準法における階段の基準をわかりやすくまとめました。
住宅や工場、学校、屋外階段など条件に分けて解説しているので、設計図面をつくる参考にしてみてください。
建築基準法における階段の基本寸法と規定
階段は建物の安全性と使いやすさを左右する重要な要素であり、建築基準法のなかでは、最低限守るべき寸法や安全確保のための基準が定められています。
まずは住宅や施設の用途に関係なく、共通ルールとしての基本寸法や設置義務をわかりやすくまとめました。
蹴上(けあげ)・踏面(ふみづら)の最低寸法と上限
階段の蹴上・踏面には、建築基準法で安全性確保のために守らなければならない、次のような明確な法定基準があります。
条件・要素 | 概要 |
蹴上(1段の高さ) | 23cm以下 |
踏面(奥行き) | 15cm以上 |
掲載出典 | 建築基準法施行令第23条 |
階段の寸法が建築基準法に沿っていないと、転倒や疲労のリスクが高まります。
特に高齢者や子どもにとっては大きなリスクとなるため、上記の建築基準法はもちろん、後述する用途ごとの特徴を踏まえて寸法を決めなければなりません。
階段の有効幅・勾配・手すりの設置義務
階段を安全かつスムーズに通行するためには、建築基準法にもとづく有効幅・勾配・手すりの設置が必要不可欠です。参考として以下に、建築基準法で定められている条件をまとめました。
条件・要素 | 概要 |
有効幅 | 一般住宅:75cm以上 非住宅建築物(施設・事務所等):90cm以上が望ましい |
勾配 | 明確な上限はないが、30〜35度が実用的である |
手すり | 2段以上の階段に設置義務あり (建築基準法施行令第25条) ※福祉施設や高齢者対応住宅では両側手すりが推奨されている |
掲載出典 | 建築基準法施行令第23条 |
特に高齢者や避難時の利用を考慮した場合、通行性と転落防止の配慮が不可欠です。
基準の最低値を満たすことはもちろん、利用者の傾向に合わせて最適な数値を導き出すことが欠かせません。
居室階と屋上階を結ぶ階段のルール
屋上を避難経路とする場合、建築基準法で居室階との階段設置が義務付けられています。
以下に、建築基準法で定められている避難階段のルールを整理しました。
- 屋内階段は必ず避難階に直通すること
- 避難階段の歩行距離は、居室の種類・構造で条件が異なる
- 避難階段をひとつだけにできるのは、一定の条件を満たした場合のみ
- 特殊建築物や大規模建築物は、避難階段を確実に確保しなければならない
(建築基準法施行令第117条)
建築基準法にもとづく火災・地震時の避難路の確保は、命に直結する対策です。
そのため建築基準法では、避難経路としての階段に、日常の利便性以上の安全性能が求められます。
また建築設計全般の概要を知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。
建築基準法における階段寸法・ルールは用途で違う

建築基準法では、建物の用途に分けて階段の条件・基準が定められています。
住宅・非住宅別で階段のルールを整理しているので、ぜひ参考にしてみてください。
住宅の階段に関する基準
住宅の階段は、日常的な使いやすさと高齢者・子どもへの配慮を両立した設計が重要です。
そのため、建築基準法施行令では、次の基準がまとめられています。
- 有効幅75cm以上(狭小住宅では例外あり)
- 蹴上18〜20cm
- 踏面22〜25cm
- 手すりの設置(片側に設置)
※高齢者がいる場合は両側 - 段鼻の視認性向上に取り組むこと
- 滑り止め加工や照明の工夫に取り組むこと
人々が生活する場所であることから、特に定められているルールが豊富です。
家庭内事故の多くが階段で発生していることから、建築基準法のルールに準拠しつつ、安全かつ登りやすい設計を実施しましょう。
工場・事務所の階段に関する基準
工場や事務所では、避難や作業移動を想定した安全で広い階段が求められます。
以下に建築基準法から関係する条件をまとめました。
- 有効幅90cm以上
- 蹴上23cm以下
- 踏面15cm以上
- 手すり設置(両側設置が望ましい)
有効幅を広く設定されているのは、荷物の持ち運びや複数人の同時移動、非常時の迅速な避難が必要となるからです。そのため、工場や事務所では「非常時の安全性&作業効率」の両立を考えた階段設計が求められます。
学校における階段の寸法・設計の基準
児童・生徒が生活をする学校では、建築基準法で次のように、安全な昇降ができる段差の低さや視認性が重視されます。
- 有効幅140cm以上
- 蹴上16〜18cm
- 踏面26cm以上
- 手すりの設置(児童用に合わせて高さ60cm前後の補助手すりも設置)
- 色分け・段鼻の視認性向上も推奨
なお上記の条件は、文部科学省が定めている「学校施設整備指針」にてまとめられている条件です。建築設計の際には、建築基準法のみならず関連基準や指針にも着目し、成長段階に応じた安全な設計に対応しなければなりません。
屋外階段における建築基準
ビルといった大型建築物に設置される屋外階段は、天候や気温変化の影響を受けるため、屋内に設置された階段よりも安全対策が求められます。以下に、建築基準法施行令第25条・第26条の条件を整理しました。
- 踏面には滑り止め加工を施す
- 手すりは避難階段として使用する場合、両側設置が原則
- 雨水排水や防錆処理、夜間照明も義務づけられる場合あり
雨風の影響を受けやすい設備は、滑りやすさや腐食の危険が高いので、避難経路として使われる場合は環境影響を配慮しなければなりません。そのため屋外階段は「素材」「構造」「避難機能」の3点から安全性を検討すべきだと覚えておきましょう。
建築基準法にもとづく登りやすい階段寸法の目安
階段を設計する際には、建築基準法に則って対応するだけではなく、多角的な視点から利用者が使いやすいと感じる構成にしなければなりません。
例えば、階段には黄金比があり「蹴上×2+踏面=60~65cm(日本人の平均歩幅)」という計算にあてはまる蹴上・踏面を用いることによって、快適に使える階段寸法を導き出せると言われています。以下に、計算例を整理しました。
- 18cm×2+24cm=60cm
- 18cm×2+29cm=65cm
上記の数値はあくまで目安です。
建物の用途や利用者に合わせて、最適な数値を当てはめつつ階段設計を検討することをおすすめします。
高齢者にも優しい階段寸法とは?
足腰の弱い高齢者を対象とした施設(グループホームや有料老人ホームなど)では、建築基準法施行令のルールはもちろん、高齢者が安全に昇降できる特別な寸法と配慮が必要です。基本的に、高齢者向けの寸法は次のように考えるのが良いと言われています。
- 蹴上16〜18cm
- 踏面28〜30cm
通常よりも段差を低く、そして足を置くスペースを広めにとるのが特徴です。
また、握りやすい手すりを両側に設置することや、段鼻の視認性アップのために色分け・照明の設置をするなど、もしもに備えた工夫が階段の安全性を高めます。
階段設計で気をつけるべきポイント
建築基準法にもとづく階段設計をする際には、2つのポイントに気を付けて設計検討と図面の作成を進めなければなりません。特に注意すべきポイントをわかりやすくまとめました。
寸法の根拠を明確にする
階段設計をする際には、どのようにして寸法を算出したのかがわかるよう、具体的な根拠にもとづいて報告書をまとめなければなりません。例えば、次のような根拠情報があると、発注者が納得できる設計を進められます。
- 利用者の平均身長や生活習慣に基づいた寸法設定
- 児童・生徒の成長段階に応じた踏面と蹴上(学校施設の場合)
- 身体能力に配慮した低い段差と広めの踏面
建築設計全体にも言えることですが、設計には必ず裏付けが必要です。
建築基準法や自治体が出している指針などを参考にしつつ、根拠となる出典を記載した報告書をまとめるようにしましょう。
用途に応じて設計判断する
階段設計は、建物の用途ごとに求められる建築基準法の条件が異なるため、ひとつの寸法ルールにとらわれるのではなく、柔軟な判断が必要です。
例えば、商業施設なら多くの人が通行するため、幅を広くし案内サインを設置する、また工場なら緊急時の避難や作業動線を考慮して滑り止めを強化するなど、将来の利用を見越した設計をすることで、設計品質を評価されやすくなるでしょう。
建築基準法のルールも重要ですが、あわせて用途に応じたカスタマイズをし、実用性と安全性を最大化することも重要です。
階段設計を効率よく実施したい場合には、3DCADソフトを活用することで視覚的にわかりやすい図面を作成できます。ライノセラスというソフトを用いて階段設計をしたい方は、以下の記事もチェックしてみてください。
階段設計に役立つCAD・BIMソフト一覧
これから階段設計を実施するうえでCAD・BIMソフトを導入する必要があるのなら、次のソフトがおすすめです。
また各ソフトの使い方がわからないという方は、セミナー講習に参加して基本操作を学ぶのが効率よい設計の近道です。上記ソフトをクリックするとおすすめの初心者セミナー講習にアクセスできるので、興味がある方は気になるソフトをクリックしてみてください。
建築基準法における階段基準についてよくある質問
建築基準法における階段基準について、よくある質問をまとめました。
建築基準法における階段についてまとめ
建築物に設ける階段は、利用者の安全性と使いやすさを支える重要な要素であり、建築基準法にて細かな規定が設けられています。また住宅、学校、工場など、用途によって求められる寸法や機能が異なるため、柔軟な寸法の検討が必要です。
なかでも建築士や設計者は、建築基準法を含む法令の遵守に加えて、利用者の身体的特徴や行動に合う設計判断が求められます。階段設計をする際にはぜひ本記事で紹介した建築基準法の情報を参考にしてみてください。
