国が推進しているDX(デジタルトランスフォーメーション)に対応するため、DXに精通した人材を確保したいと考えていないでしょうか。しかし多くの企業では、DX推進のカギを握る「DX人材」の育成が追い付いていないのが現状です。
そこでこの記事では、DX人材の育成が必要な理由や人物像、育成計画の手順についてわかりやすくまとめました。企業成功事例や、DX人材の育成に役立つ研修・プログラムの選び方も解説しています。
なぜ今DX人材が必要?企業が抱える育成の課題

結論として、多くの企業でDX人材が求められているのは、デジタル化の波が押し寄せているためです。
IPA(情報処理推進機構)が公開している資料によると、2024年時点でDX化を全社的に実施できているのは34.4%の企業だけです。それ以外の企業は一部の部門だけ対応できていたり、まったく取り組めていなかったりと、十分にDX化を実施できていません。(上の画像参照)
ではなぜ、企業のDX化が進んでいないのでしょうか。
まずは、企業が抱えるDX人材育成の課題を見ていきましょう。
- 市場・競争環境の変化によりDX人材が不足している
- 少子高齢化でDX人材の育成を「採用」に頼れない
市場・競争環境の変化によりDX人材が不足している

日本企業では、DXを推進するための人材が根本的に足りていません。
総務省が公開している令和3年に公開した「情報通信白書」によると、日本の約半数の企業が人材不足によってDX化を進められていないことがわかっています。
※上画像の青色が日本の動向
特に「データ活用」「AI」「クラウド」分野の専門スキルを持つ人材が慢性的な不足に陥ると言われています。そして、この背景には、次の要因が関係しています。
- IT投資の多くが「業務維持」目的で、新規DX施策に割く余力がない
- 社内にデータ分析やAI活用のノウハウが不足している(ナレッジがない)
- DX推進体制が整わず、現場主導での取り組みが散発的である
このように、ツール導入だけでは変革が進まず、「人」の育成がボトルネックとなっています。
DX人材の育成までたどり着けていない企業が多く、DX化の実現に時間がかかるのが課題です。
少子高齢化でDX人材の育成を「採用」に頼れない

少子高齢化の影響を受けて人手不足に陥っていることも、企業のDX推進を遅らせる原因となっています。
厚生労働省が公開している「日本の人口の推移」の情報によると、2025年時点で75歳以上となる人口が約2割、そして2040年には65歳以上の方たちが約4割弱になると推計されています。一方で、若年層の割合は減少傾向にあり、DX人材の母数も減ってしまうのが実情です。
つまり、DX人材を確保するための倍率が高まっている今、簡単にDX人材を採用することができません。そのため企業では、採用での人材確保から人材育成にシフトチェンジし、自社でDX人材を育てることが急務となります。
実際に多くの企業では、既存社員を対象にリスキリング(再教育)を行い、業務を通じて実務に必要な知識やスキルを習得させる「OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」や外部研修で段階的にスキルを高めようとしています。
DX人材とは?育成すべき人材像と必要スキル
企業のDX化を推進する「DX人材」とは、デジタル技術を使って業務やビジネスモデルを変革する人材を指します。単にITスキルを保持しているだけでなく、「課題を見つけ、テクノロジーで解決に導く力」を持つ点が人材の特徴です。
ここでは、国が定める人材要件について解説します。
- 経済産業省・IPA「デジタルスキル標準(DSS)」における人材要件
- 「DXリテラシー標準(DSS-L)」で求められる基本能力
- 「DX推進スキル標準(DSS-P)」における5つの人材類型
経済産業省・IPA「デジタルスキル標準(DSS)」における人材要件
経済産業省の「デジタルスキル標準(DSS)」は、DX人材育成の基準となる公式指針です。
DSSは、企業・個人がDXを推進するために必要なスキルを体系化したもので、2022年に経済産業省とIPA(情報処理推進機構)が共同で公表しました。スキルは大きく2層に分かれています。
| 区分 | 概要 |
|---|---|
| DXリテラシー標準(DSS-L) | 全社員に求められるDX基礎スキル |
| DX推進スキル標準(DSS-P) | 専門職種に必要なスキル体系 |
たとえば、企業全体でDXに関するリテラシーを高めることで、DX人材が分析・検討しやすい情報を共有できるようになります。DSSをもとにしたスキル評価を行えば、人材育成と経営目標の整合性をとることも可能です。
「DXリテラシー標準(DSS-L)」で求められる基本能力

DXリテラシー標準(DSS-L)は、すべての社員がデジタル変革の担い手となるための「共通言語」を定義した指針です。DXを進めるうえで、特定の専門職だけでなく、一般社員がデジタル技術を理解し、業務改善に活かせる力が欠かせません。特に以下の4つの能力が重視されます。
- デジタル技術の理解力
- データ活用力
- 課題発見力と業務変革マインド
- セキュリティ・倫理観
これらは、DX推進体制や人材の育成を支える全社員の共通スキルであり、組織文化を変える基盤です。たとえば、営業職がデータ分析で顧客傾向を把握したり、製造現場の担当者がIoTデータを活用して歩留まりを改善したりと、現場主導のデジタル活用が進みます。
「DX推進スキル標準(DSS-P)」における5つの人材類型

DX推進スキル標準(DSS-P)は、企業がどのような専門人材を育成すべきかを具体的に示した国家指針です。DSSのうち、実務を担うDX人材のスキル構造と育成モデルを定義しています。なお、DSS-Pでは、育成すべきDX人材を5つのタイプに分類しています。
| 類型 | 主な役割 | 必要スキル・知識の例 |
|---|---|---|
| ビジネスアーキテクト | DX戦略の策定・業務設計・推進リーダー | 経営戦略・プロジェクト管理・データ分析 |
| デザイナー | 顧客体験(CX)・UI・UXの改善 | デザイン思考・プロトタイピング・マーケティング |
| データサイエンティスト | データ分析・AI活用・可視化 | 統計・Python・BIツール・AIモデリング |
| ソフトウェアエンジニア | DX基盤の構築・クラウド開発 | プログラミング・API設計・セキュリティ |
| サイバーセキュリティ | DX環境のリスク管理と防御 | 情報セキュリティ・脆弱性管理・CSIRT対応 |
なおDX人材を育成する際には、上記5つを人材ごとに分担することが大切です。
ビジネスアーキテクトが全体戦略を描き、デザイナーとソフトウェアエンジニアが実装を担い、データサイエンティストがデータを活用し、サイバーセキュリティが全体を支えるという仕組みをつくることで、各人の育成や業務負担を減らせます。
企業が実践すべきDX人材の「育成計画」の手順

ここでは、DX人材の育成方法がわからないと悩む企業担当者向けに、失敗を回避できる育成計画の手順を7ステップに分けて紹介します。
- 何のためのDXか(目的)を定義する
- どんなDX人材を何名育てるか要件を定義する
- 育成対象を選出・アサインする
- 現状のスキルとDX推進体制を分析して課題を可視化する
- 育成のキャリアパス設計とスキルマップを構築する
- プログラム設計に沿って育成を進める(座学・OJT・社外連携)
- DX人材の育成後の評価・フィードバックで改善を続ける
目的(何のためのDXか)を定義する
DX人材育成の出発点は「何を目的に変革するか」の明確化です。
目的が曖昧だと施策が空回りするため、業務効率化・新事業創出などを具体化して、経営層と共有することからスタートしましょう。
ベースとなる目的が定まれば、全社員のリスキリング方向が統一されます。
どんなDX人材を何名育てるか要件を定義する
次に、経済産業省・IPAが定めているDSS-L・DSS-Pをもとに「どの職種のDX人材を何人育てるか」を決めます。全社員向けDXリテラシー教育と専門人材育成を分け、スキルマップを設計し、育成層を明確にすると投資効果が高まります。
育成対象を選出・アサインする
DX人材の育成対象者は、スキルよりも意欲を重視して選びましょう。
なぜなら、DX人材の育成は着実に能力を伸ばして、企業のDX化を実現することが目標だからです。
たとえば、能力があってもメインの業務が忙しくDX人材として育成できなければ、時間と労力を無駄にしてしまいます。関係者の挫折や離脱を防止するためにも、現場の課題意識が高い人材を巻き込み、DX推進体制の中心に配置することが重要です。
現状のスキルとDX推進体制を分析して課題を可視化する
要件を定義したら、現状の企業で働く対象人材のスキルを可視化し、どこに育成ギャップがあるか把握しましょう。一例として、DSSに準拠したスキル診断やアンケートを実施し、部門別にDXに関する成熟度を分析していくのがおすすめです。
能力を可視化することで、OJTやリスキリングの方向性が定まります。
育成のキャリアパス設計とスキルマップを構築する
効率よくDX人材の育成を成功させるために、育成後にどうなるか見える「キャリアパス」、育成の状況がわかる「スキルマップ」を設計・構築しましょう。
DSSの項目をもとに到達レベルを数値化し、社員が自分の成長を把握できるようにすることで、モチベーションを維持させながら目標達成を狙えます。
プログラム設計に沿って育成を進める(座学・OJT・社外連携)
DX人材の育成計画が整ったら、以下の三本柱で育成を進行しましょう。
- 座学
- OJT
- 社外連携
座学で基礎を学び、OJTで実践、社外研修で知見を拡張するという仕組みをつくれば、実務で役立つDXの知識や能力を養えます。DX人材は実践を通じて成長するため、現場主導のリスキリングが重要です。
またDX人材を育成する際には、並行して資格取得を検討することも重要です。
以下の記事では、DX人材に役立つ資格をレベル別に解説しています。
DX人材の育成後の評価・フィードバックで改善を続ける
DX人材の育成後は、評価とフィードバックを定期化し、以下のPDCAを回すことが重要です。
- Plan(計画)
- Do(実行)
- Check(評価)
- Action(改善)
スキル診断や成果の共有を通じて、次の成長目標を設定するという流れをつくり、常にクオリティアップを目指しましょう。
成功企業の事例から学ぶ「リアルなDX人材育成モデル」
前述した育成計画の流れに合わせて、ここではIPAが公開している参考事例集をもとに、育成成功を実現した企業事例を整理しました。
| 企業名 | 概要 |
|---|---|
| 株式会社ファミリーマート | ビジネスアーキテクト・データ活用人材・システム開発推進人材の3つをDSSにもとづき選抜し、研修を通じて育成を実施。企画プレゼンを開催して成果の創出につなげる。 |
| NTTコムウェア株式会社 | エンジニア人材の育成について、独自のD(デベロッパー)DSSとしてスキル項目を設定し、個人やチームのスキルを可視化。マインドや技術を見えるかすることにより、傾向分析ができるように整備した。 |
| 資生堂インタラクティブビューティー株式会社 | DX人材の育成のために、独自の人材育成フレームワーク「4Dサイクル」を設計。約30名の人材を同時に育成させ、約2年間のうちにデジタル人材を3倍以上に増加させる。 |
出典:IPA「デジタルスキル標準(DSS)活用事例集、リンク集(2025年10月24日更新)」
なお、成功企業に共通するのは、「DXビジョンの全社共有」「現場OJTを中心とした実践型リスキリング」「データ活用による成果検証」の3点です。特に経営層がDX推進体制を率先して整備する企業ほど、育成定着率が高い傾向にあります。
建設(建築・土木)分野におけるDX人材の育成事例

DX人材育成の考えは、すでに建設業にも浸透中です。
たとえば国土交通省では、DX人材を効率よく育成するために、次のような包括的な人材育成メニューが整備されています。
- 建設キャリアアップシステム
- 教育訓練センターでの職業訓練
- 日建連による資格取得助成制度
上記のなかには、建設業のDX化の要となるBIM・CIM技術の習得も含まれており、制度を利用することで企業にいるDX人材の成長を促せます。DX関連のサービスを提供する民間企業だけでなく、国とも連携しながら人材育成に取り組めるのが、建設分野におけるDX化のメリットです。
(参考:国土交通省「人材育成について」)
企業の「できない」を解決するDX人材育成研修

DX人材を社内で育てようとしても、「講師がいない」「体系的に学べない」といった課題に直面する企業も少なくありません。こうした場合は、外部のDX研修やリスキリングプログラムを活用するのがおすすめです。外部研修を導入するメリットは、以下の3点です。
- 経済産業省「デジタルスキル標準(DSS)」に準拠した体系的カリキュラムで学べる
- 最新ツールや事例をOJT形式で学び、実践力が身につく
- 社外講師・専門家から客観的なフィードバックを受けられる
また、最初に研修へ参加すれば、DX推進体制を構築するための基盤づくりとしても有効です。
経営層を含めたDXリテラシー研修から、データ分析・AI活用・業務改革リーダー育成まで、職種別・階層別にプログラムを選ぶと効果的です。
なお、自社に最適なDX人材の育成方法がわからないとお悩みなら、解決策を見つけ出すために、研修サービスを利用するのが良いでしょう。
以下の育成研修サービスでは、DXやAIの導入から定着までをトータルサポートしています。
現場で即戦力となるDX人材の育成が可能ですので、まずは無料相談を利用してみてください。
DX人材育成に活用できる助成金・補助金制度
DX研修や外部プログラムの費用は、1人あたり10〜30万円程度が一般的であるため、DXを推進する中小企業にとっては、コストが育成の障壁になる場合も多いです。その場合は、国や自治体の助成金・補助金制度を活用することで、費用の一部または全額を補填できます。
| 企業名 | 対象者 | 上限額・特徴 |
|---|---|---|
| 人材開発支援助成金 (厚生労働省) |
正社員・有期社員のスキルアップ | 最大75%補助 |
| IT導入補助金 (経済産業省) |
中小企業・個人事業主 | 最大450万円補助 |
| デジタル人材育成支援事業 (自治体・商工会) |
地方企業・中小事業者 | 各自治体ごとに上限異なる |
助成金は、申請前に研修計画を策定することが条件のため、早めの準備が重要です。
制度を上手に組み合わせれば、初期費用を抑えながら高品質なDX研修を導入できます。
DX人材の育成に役立つ詳しい補助金の情報は、以下の記事で解説しています。
DX人材の育成についてよくある質問
ここまで解説してきたDX人材の育成について、企業からのよくある質問をFAQ形式で回答します。
DX人材の育成についてまとめ
DX人材の育成は、単なる研修ではなく「企業の未来を支える投資」です。
経済産業省のデジタルスキル標準(DSS)を軸に、目的設定・スキルマップ構築・OJT・評価までを一貫して行うことで、自走できるDX推進体制をつくれます。
なお、リスキリングや外部研修、助成金制度をうまく活用すれば、費用を抑えながら全社員のデジタル活用力を底上げできます。社内でDX人材を育成できないとお悩みなら、外部サービスを積極的に利用しましょう。