「建設DXにBIMを導入して業務を効率化したいが、どこから手をつければいいのかわからない」と感じている方は多いのではないでしょうか。
近年、建設業界では人手不足や複雑化する設計・施工プロセスへの対応が必要となり、これまでの紙図面や経験だけに頼るやり方では、生産性や品質を維持することが難しくなっています。そんな中、設計・施工・維持管理を一貫してデジタル化し、情報共有や干渉検知を自動化できるBIMは、建設DXを進めたい企業にとっておすすめのツールです。
本記事では、BIMを導入する具体的なメリットをはじめ、失敗しないためのステップや準備のポイントをわかりやすく解説しますので、導入を検討中の方はぜひ参考にしてください。
建設DX推進上の課題
建設DX推進上の問題は主に以下の3つです。
- 人材不足・デジタル人材育成の遅れ
- 設備投資が高コストでROIが不透明
- データ共有のルールやセキュリティが曖昧
①人材不足・デジタル人材育成の遅れ
建設DXを進めるうえで課題のひとつが、現場でデジタル技術を扱える人材が圧倒的に足りないことです。BIMやICT施工機器を導入しても、操作方法や活用の仕方を教えられるベテラン技術者が不足しているため、現場に定着しにくい状況が多く見られます。
また、少子高齢化で若手の入職者も減っており、従来の「現場で覚える」やり方だけでは技術の継承が追いつかないという問題も深刻です。このため、単に最新のツールを導入するだけでなく、それを扱う人を育成するための研修やOJTの仕組みを作り、年齢や経験に関わらず誰でも使いこなせる体制を整えることが急務となっています。
②設備投資が高コストでROIが不透明
BIMやIoT機器、クラウド型の管理システムなど、建設DXに必要なツールや環境は導入コストが高額になることが多く、中小企業では「これだけ投資して本当に効果が出るのか」と不安を抱えるケースが少なくありません。
たとえば、BIMソフトだけでも数十万円〜のライセンス費用がかかり、加えてPCや研修コストも必要です。しかし、短期的には利益への影響が見えにくく、経営層がROIのイメージをつかめないことが障壁に。この課題を克服するには、小規模から段階的に試行を行い、どの業務にどれだけの効果があるか数値で示しながら導入範囲を広げるやり方が効果的です。
③データ共有のルールやセキュリティが曖昧
建設DXではプロジェクトに関わるデータを関係者全員で共有する必要がありますが、その運用ルールやセキュリティ体制が曖昧なままだと、トラブルにつながりかねません。
どの情報を誰が更新していいのか、どの段階で承認が必要かがはっきり決まっていないと、古いデータが混在してミスや手戻りが発生。また、外部の会社とクラウドを通じてデータをやり取りする際、情報漏えいのリスクもあります。
この問題を防ぐためには、データの管理ルールやアクセス権限を明確にし、セキュリティポリシーを全員に周知する仕組みが必要です。
建設業におけるDXについては以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
建設DXにBIMを導入するメリット
建設DXにBIMを導入するメリットは主に以下の3つです。
- 設計・施工の手戻り削減
- 品質・安全管理の高度化
- 働き方改革の推進
①設計・施工の手戻り削減
BIMを導入すると、一つの3Dモデルをもとに設計から施工までデータを一貫管理できるため、従来のように「設計図と施工計画が食い違っていた」というトラブルを減らせます。
設計データに変更があった場合、関連する図面や数量表にも自動で反映されるので、手動で修正する手間や修正漏れがほとんどなくなります。また、施工前にモデル上で干渉チェックを行うことで、問題を事前に見つけて調整できます。この仕組みのおかげで、現場で「やっぱり図面と違うからやり直し」という手戻りが起きにくくなり、作業時間やコストのムダを削減できます。
結果的に、工期の短縮や利益率の改善にもつながるでしょう。
②品質・安全管理の高度化
BIMを活用すると、建物の設計データや施工情報をすべて一つの3Dモデルに集約できるため、品質管理や安全管理がレベルアップします。
工事中に作業員がモデルを確認することで、どの部分にどんな仕様があるのかを直感的に把握でき、施工ミスを減らせます。工程ごとの進捗や品質チェックの記録をモデルに紐づけることで、「いつ・どこで・誰が」確認したかが履歴として残り、後から検証も容易です。
情報を関係者全員で共有することで、現場全体の安全意識が高まり、トラブルを未然に防ぐ体制が築けます。
③働き方改革の推進
これまで建設業では、紙図面や口頭での指示が中心だったため、情報の行き違いや確認作業に多くの時間がかかり、残業や休日出勤が当たり前のように発生していました。
しかし、BIMを導入すると、最新データをクラウドで一元管理できるため、社内外の関係者がいつでも同じ情報を確認できます。「現場に行かないと進捗がわからない」「変更を全員に説明するのに時間がかかる」といった手間が減ります。
また、リモートワークや在宅勤務でも打ち合わせや設計変更がリアルタイムで進められるようになり、長時間労働の削減や柔軟な働き方が実現しやすくなります。人材確保や定着にもつながる重要なポイントです。
BIMについて詳しく知りたい方は以下の記事を参照ください。
建設DXにおけるBIM導入ステップ
建設DXにおけるBIMの導入は闇雲にするのではなく、以下のステップで実施しましょう。
- BIM導入のKPIとKGIを明確にする
- 現状の業務プロセスとIT環境を把握する
- 自社に適したBIMソフトを選ぶ
- PDCAを回す
①BIM導入のKPIとKGIを明確にする
BIMを導入する際にまず大事なのはKGIと、進捗を測るKPIを決めることです。これが曖昧だと、どれだけ効果が出ているのかが分からず、社内の理解や予算確保が難しくなります。例えば以下のように目標を設定できます。
KGI |
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KPI |
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最初にこれをしっかり決めておくことで、BIM導入が「やっただけ」で終わらず、投資対効果を示せるようになります。
②現状の業務プロセスとIT環境を把握する
BIMを効果的に導入するためには、今の業務フローやIT環境がどうなっているかを洗い出す必要があります。どこにムダや属人的な作業が多いのか、どの部分で情報が途切れているのかを把握することで、BIMで解決すべき課題が明確になります。主にチェックすべきポイントは以下の通りです。
- 図面作成や修正のフロー
- 部門間のデータ共有方法
- 現在使っているCADや管理システム
- 社内のネットワークやPCスペック
たとえば「設計と現場で別々のデータを使っている」「紙とExcelに頼っている」といった問題を特定することで、導入範囲と優先順位を整理できます。準備段階でこの把握を怠ると、BIMを入れても現場に根付かず、従来のやり方に戻ってしまうリスクがあります。
③自社に適したBIMソフトを選ぶ
BIMソフトといっても、得意分野や操作性はソフトごとに異なります。そのため、自社の業務内容や規模、ITスキルに合った製品を選ぶことが重要です。たとえば、住宅中心ならコスト重視の国産ソフト、大型プロジェクトが多いなら干渉検出やクラウド連携が強い海外製ソフトが向いています。
できれば試用版を使って実際に操作感を確認し、「これなら自分たちでも使える」と現場の納得を得てから導入を決めると失敗しにくいです。
④PDCAを回す
BIMを導入したら終わりではなく、必ず「PDCA」のサイクルを回すことが大切です。最初に立てたKPIやKGIをもとに、どの程度目標に近づいているかを定期的にチェックし、足りない部分を修正していきます。
- Plan(目的とKPIを設定する)
- Do(実際に運用を始める)
- Check(データや現場の声をもとに進捗を確認する)
- Act(問題があれば運用方法や設定を見直す)
このサイクルを回し続けることで、BIMがただのツールではなく、業務改善や働き方改革を支える仕組みに育っていきます。
建設DXでBIMを活用した事例
ここでは建設DXでBIMを活用した事例を2つ紹介します。
- 清水建設
- 長谷工コーポレーション
①清水建設
清水建設は「デジタルゼネコン」を掲げ、BIMを基盤とした全社的なDX推進を行っています。自社開発の「Shimz One BIM」プラットフォームを中核に、設計から施工、竣工後の運用・管理までBIMデータを一元管理し、建築主や関係者が自在に活用できる新サービスを展開しています。
例えば、竣工BIMデータを建築主が閲覧・活用できる「Shimz One BIM+」では、什器・備品の棚卸しや固定資産管理を効率化。IoTセンサーやAI画像解析と連携し、建物の温度・湿度・稼働状況などのリアルタイム情報をBIMモデルに統合しました。
これにより、異常検知や予兆保全など、運用フェーズでの資産管理の高度化を実現しています。
②長谷工コーポレーション
長谷工コーポレーションは、マンションに特化した独自の「長谷工版BIM」を構築し、設計・施工比率の高さを活かしてBIMの全面導入を進めています。このBIMはAutodesk Revitをベースに自社のノウハウを反映したもので、設計情報の一元管理による品質・生産性の向上、3Dモデルによる意思決定の迅速化、図面や積算・シミュレーションの連動による多角的な設計が特徴です。
BIMと生成AIを組み合わせた国内初のシステムを開発し、現場でチャット形式の質問から設計図書情報を瞬時に取得できる仕組みを導入。
現場所員が複雑な設計情報を迅速に把握できるようになり、作業効率が向上しています。また、BIMモデルとビジュアルプログラミングツール「Dynamo」を連携させてコンクリート数量の自動算出を実現し、積算業務の75%削減やヒューマンエラーの防止にも成功しています。
建設DXでBIMの導入を成功させるおすすめのセミナー
建設DXでBIMの導入を成功させるおすすめのセミナーを以下3つ紹介します。
- BIM-PLUS.1 Summit 2025
- BIM・建築3DCAD Revitセミナー講習
- DX・AI人材育成研修サービス
①BIM-PLUS.1 Summit 2025
BIM-PLUS.1 Summit 2025は、建設業界のDX推進を目指す専門家や企業が集まる大規模なカンファレンスで、最新のBIM技術や活用事例、業界動向を体系的に学べます。
設計から施工、維持管理までBIMの全フェーズをカバーし、国内外の先進事例や最新ツールの紹介、パネルディスカッションを通じて実践的な知識が得られます。参加者は業界トップの技術者や経営者と交流でき、ネットワーク構築や課題解決のヒントも得られるため、BIM導入の成功に向けた戦略立案に最適です。
特に建設DXの全体像を把握し、組織横断的な推進体制を構築したい企業におすすめのイベントです。
②BIM・建築3DCAD Revitセミナー講習
BIM・建築3DCAD Revitセミナー講習は、Autodesk Revitの操作スキル習得とBIMの実務活用を目的としたセミナーです。
基礎から応用まで段階的に学べ、設計モデルの作成、構造や設備との連携、施工図作成まで幅広い機能をカバーしています。特に建築設計者や施工管理者がBIMを日常業務に取り入れるための具体的なノウハウが充実。
最新バージョンのRevitを用い、3Dモデリングだけでなく、情報管理やデータ連携の効率化も体験できるため、BIM導入の初期段階から実務定着までを支援します。
セミナー名 | BIM・建築 3DCAD Revitセミナー講習 |
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運営元 | GETT Proskill(ゲット プロスキル) |
価格(税込) | 41,800円〜 |
開催期間 | 2日間 |
受講形式 | 対面(東京・名古屋・大阪)・ライブウェビナー・eラーニング |
③DX・AI人材育成研修サービス
DX・AI人材育成研修サービスは、建設業界のデジタル変革を推進するために必要なDXリテラシーやAI活用スキルを体系的に育成するプログラムです。企業の現状分析を踏まえ、階層別や職種別に最適化されたカリキュラムを提供し、短期集中から中長期育成まで柔軟に対応可能。
eラーニングやワークショップを組み合わせ、実践的なスキル定着を図ります。特に建設現場の多様な課題に対応するため、BIMやCIMとの連携、生成AI活用の最新動向も取り入れ、現場の生産性向上と働き方改革を支援。さらに、DXリスキリング助成金の活用相談も可能で、コスト面の負担軽減も図れるため、企業のDX推進体制強化に最適な研修サービスです。
建設DXでBIM導入についてのまとめ
建設DXを推進するうえでBIMの導入は、設計や施工の精度を高めるだけでなく、情報共有や進捗管理の標準化を実現し、従来の紙図面や属人的なノウハウに依存する働き方から脱却できるでしょう。しかし、導入コストの不安や運用体制の未整備など課題も多く、闇雲に始めると現場に定着しない恐れがあります。
本記事で紹介した導入ステップ、事例、セミナー情報を参考に、自社の業務や目指すDXの方向性に合った進め方をしっかり検討しながら、段階的に試行・改善を繰り返し、長期的に業務を変革していくための体制を整えてください。
