「人手が不足しており、現場が回らず残った社員に負担が集中している」と人手不足の悩みを抱える企業は年々増加しています。少子高齢化や働き方の多様化により、企業が求める人材を安定的に確保するのは難しい時代になりました。
特に中小企業では、採用や育成に割けるリソースが限られているため、対応を後回しにした結果、業務効率や売上にまで影響が及んでいるケースも少なくありません。しかし、単に「人を増やす」だけでは根本的な解決にはなりません。
そこで本記事では、人手不足の背景を踏まえつつ、12の解決策を徹底解説します。また、自社で解決できない場合に検討すべき外部支援の活用法や、社員のスキルを活かすための育成サービスまで紹介しています。
企業の人手不足の現状と背景
人手不足を解決する前に、まずは現在の状況を把握しておきましょう。帝国データバンクの調査によれば、2024年に「人手不足」を原因とする倒産は累計342件に上り、前年の約260件から約1.3倍に増加。これは調査開始以降で2年連続の過去最多となる数字です。
また、2025年1月時点で約53.4%の企業が従業員の不足を感じているとの報告もあり、企業の半数以上が慢性的な人手不足に直面している現状が浮き彫りになっています。
引用：帝国データバンク
人手不足が深刻化している背景には、少子高齢化による労働人口の構造的減少や、若年層の働き方や価値観の多様化など様々な要因があります。働き手となる生産年齢人口の減少に対し、景気回復に伴う求人の増加で需給ギャップが拡大し、多くの企業が「採用したくても人が見つからない」状況に陥っているのです。
人手不足解決策を講じる前にすべきこと
人手不足は闇雲に対策をしても意味がありません。解決策を講じる前に以下2点を実施しましょう。
- 人手不足の原因を調査
- 解決策のKPIとKGIを立案
①人手不足の原因を調査
まずは、自社で人手不足がなぜ起きているのか原因を調査・分析します。人手不足の要因は企業によって様々であり、原因に応じて取るべき対策も異なります。例えば、社員の離職率が高いのに対して、人を大量に採用しても状況は変わりません。
人手不足の要因は大きく「職場環境」「業務体制」「採用戦略」の側面で分類して考えられます。自社の状況に照らし、憶測ではなく、現場の声やデータを収集してエビデンスのある原因を突き止めましょう。その上で、原因に合った対策立案の準備を進めることが重要です。原因の仮説を立てて検証し、優先度の高い課題から順に対処していくことが重要です。
②解決策のKPIとKGIを立案
原因を把握したら、次に解決に向けた目標指標「KPI」と最終ゴール「KGI」の設定を行います。例えば、KGIやKPIは以下のように設定ができます。
| KGI |
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| KPI |
|
ただ、設定するだけでなく定期的にモニタリングして進捗を把握しましょう。明確なKGI/KPIを定めておくことで、施策の効果検証が可能となり、軌道修正も行いやすくなります。
人手不足を解消する12の解決策
人手不足を解消する12個の施策について以下4つに分類して解説します。
- 採用における解決策
- 人材定着・育成における解決策
- 業務効率化における解決策
- 組織戦略・経営視点における解決策
①採用における解決策
人手不足を根本から解消するには、必要な人材を採用によって確保する取り組みが必須です。以下のようなポイントに注目して採用力を高めましょう。
採用方法の見直し
自社の採用プロセスや手法をゼロベースで点検します。単に人手を増やすことだけが目的化していないか、闇雲に複数の求人媒体へ掲載するだけで満足していないかを検証しましょう。
重要なのは「どんな人材が自社に必要か」を明確にし、その人物像に合った採用チャネルを選定することです。
多様な人材の採用
人材プールを広げるため、これまで積極的に採用してこなかった層にも目を向けます。主に以下の人材が当てはまります。
- シニア層/高齢者
- 女性人材
- 障害者や外国人
業務に必要なスキルや適性があれば国籍や障がいの有無に関係なく採用し、社内の多様性を高めることで新たな視点や活力が生まれる可能性もあります。
雇用形態の柔軟化
正社員フルタイムだけにこだわらず、様々な雇用形態を組み合わせて人材を確保します。慢性的な人手不足環境下では、働き方の選択肢を狭めてしまうと人材確保が一層難しくなるためです。
パートタイムやアルバイト、契約社員、業務委託スタッフなどを積極的に活用しましょう。
②人材定着・育成における解決策
採用した人材も、定着せずに離職してしまっては人手不足は解消しません。現在いる従業員が安心して長く働ける職場づくりと、従業員の能力を高めて戦力化する人材育成の両面から対策を講じましょう。
労働条件の改善
社員にとって働きやすい労働条件になっているかを確認してみましょう。確認する点は以下の通りです。
- ノー残業デーの導入
- フレックスタイム制や時短勤務制度の導入
- 賃金水準や各種手当の見直し
特に給与は見直すべきポイントです。業界水準と比較して極端に低い給与であれば、優秀な人材の流出につながります。社員が納得できる処遇を提供し、安心して働けるようにすることが、人手不足の解決になるでしょう。
福利厚生の充実
社員のモチベーション維持には福利厚生の果たす役割も大きいです。基本的な社会保険制度の整備はもちろん、住宅手当や家族手当、育児・介護休暇制度、健康診断や社内表彰制度など、社員が魅力に感じる独自の福利厚生を充実させましょう。
自社の従業員が何を求めているかアンケート等で把握し、ニーズに合った福利厚生を提供することで離職防止につなげることができます。
職場環境・組織文化の改善
働きがいのある職場環境や組織文化を改善するのも方法の1つです。経営陣が企業理念やビジョンを社内報・朝礼等で積極的に発信し、全社員で目的意識を共有しましょう。
また、部門間の壁を越えたコミュニケーションを促す取り組みも効果的です。
③業務効率化における解決策
人手不足を解決するのは「人手を採用する」だけではありません。限られた人員で生産性を高めて一人ひとりの負担を軽減できれば、少ない人員でもこれまで以上の成果を出せるようになり、人手不足の緩和につながります。
教育・研修制度の整備
社員のスキルアップを支援し、人材を育成していく仕組みを強化します。従業員一人ひとりが成長できれば、仕事への意欲向上や会社へのロイヤリティ向上につながり、結果的に離職防止も期待できます。
OJTや社内外研修の機会提供、資格取得支援、eラーニングなどを積極的に活用しましょう。
ITツールやシステムの活用
ITツールやシステムを活用して自動化・効率化します。RPAやAIツールの導入、専用ソフトウェアやクラウドサービスの活用などが有効です。これまで人手で対応していた定型的な事務作業を自動化できれば、社員はより付加価値の高い業務に専念できます。
IT化によりテレワーク等の柔軟な働き方も実現しやすくなります。
業務のアウトソーシング
自社内で賄えない業務や専門性が必要な業務は、外部の専門サービスに委託することも検討しましょう。自社の限られたリソースをコア業務に集中させるため、周辺業務は外部の力を借りる戦略です。
例えば、経理・人事・ITサポートなどバックオフィス業務の一部または全部をBPOサービスに依頼するケースが増えています。他にも、コールセンター対応やデザイン制作など、自社に十分なノウハウがない分野は経験豊富な外部企業に任せるとよいでしょう。
④組織戦略・経営視点における解決策
最後は組織戦略・経営視点における解決策です。意外に見落としがちな対策ですが、時代に合った改革を進めることで、人材不足に対応できる強い組織を作ることができます。
働き方改革の推進
社員がより柔軟で働きやすい環境を整えるため、経営主導で働き方改革に取り組みます。例えば、リモートワーク制度の導入や週休3日制の検討、ノー残業文化の定着などは、従業員のワークライフバランスを向上させるには有効です。
管理職自らが率先して定時退社を実践するなど、トップダウンで長時間労働が起こる風潮を減らしましょう。
DX・AIの推進による業務改革
デジタル技術を活用して業務プロセスやビジネスモデル自体を改革することも、人手不足を解消する解決策です。DXを経営戦略に位置づけ、積極的にIT投資を行いましょう。
社内の紙・手作業のプロセスをデジタル化したり、AIを使ったデータ分析・自動化に踏み切ったりすることで、人海戦術に頼っていた業務を省力化できます。
組織体制・人員配置の最適化
経営視点で自社の組織の在り方を見直し、限られた人材を最大限に活かす組織体制を構築します。まずは各部署・各業務の負荷状況を可視化し、特定の社員に業務が偏っていないかチェックしましょう。
偏りがあれば、部署間で応援し合える仕組みやジョブローテーションの導入によって、一部の社員に負荷がかからないよう調整してください。
人手不足解決策3つの成功事例
実際に人手不足を解決した企業の取り組み事例を紹介します。中小企業でありながら創意工夫で人材不足を解決した3社の例は、解決策を見つけるヒントにもなるでしょう。
- 株式会社英田エンジニアリング
- 有限会社WILLPLANT
- 岡田パッケージ株式会社
①株式会社英田エンジニアリング
有給取得率の低さや低利益業務の多さ、人手不足によるモチベーション低下といった課題を抱えていた同社は、「部署別採算表」を導入することで業務の可視化と意識改革に成功しました。結果として、社員の当事者意識が高まり、職場全体の活力が向上しました。
抱えていた課題
- 有給取得率が低い
- 低利益率業務に工数がかさんでいた
- 人手不足で一人当たりの業務量が多く、モチベーションの低下が顕著
人手不足解消のために講じた策
- 業務効率化を目的に「部署別採算表」を導入
- 各部署の収支を「見える化」し、社員が利益意識を持てるように
- 社員が自発的に業務改善を提案する文化の醸成
②有限会社WILLPLANT
不規則な勤務体系が原因で社員の定着に課題があった有限会社WILLPLANTは、社員が自分で勤務時間を選べる制度に変更することで、自由な働き方とやりがいの創出に成功しました。離職防止だけでなく、副業で活躍する社員も誕生するなど、多様な働き方が実現しています。
抱えていた課題
- 勤務時間が不規則で社員が休みを取りづらい
- 働きづらい環境により人材が定着しにくい
人手不足解消のために講じた策
- 始業・終業時刻を社員自身が調整できる制度を導入
- 柔軟な勤務体系を整備し、自律的な働き方を推進
- 社員の副業やキャリアの多様性を容認する文化を構築
③岡田パッケージ株式会社
子育て支援制度が整っていても職場内で相互理解が進まず、働きにくさを感じる社員がいた岡田パッケージ株式会社。そこで、出産から高校卒業まで子どもの成長に応じて祝い金を支給する制度を導入しました。結果、職場の雰囲気が改善され、社員が安心して働ける職場環境を実現しています。
抱えていた課題
- 女性社員が働きやすい制度はあっても、実際には機能していなかった
- 社員同士が互いの家庭事情に配慮・協力する文化が不足していた
人手不足解消のために講じた策
- 次世代育成支援金制度の導入（子ども1人当たり総額51万円を支給）
- 節目ごとの祝い金により家庭への理解と支援を可視化
- 社員が長く安心して働ける職場づくりを推進
人手不足解消策が功を奏さない場合にできること
様々な対策を講じても人手不足の解消が難しい場合、外部の力を借りることも検討しましょう。自社内のリソースやノウハウだけでは限界がある場合、専門の外部機関を上手に活用することで状況を打開できるケースもあります。
- 自社のDX人材を育成し抜本的な改革を行う
- 人材派遣会社を利用する
- コンサルティング会社を導入する
①自社のDX人材を育成し抜本的な改革を行う
人手不足の解消に向けてさまざまな対策を講じても、目に見える成果が得られない場合は、自社内にDX人材を育成し、生産性そのものを抜本的に見直すというアプローチが有効。その中でも、近年需要が高まっているDX・AI分野の人材育成を支援してくれるサービスとして注目なのが、「企業向けDX・AI人材育成研修サービス」です。
自社の状況に合わせてオーダーメイドの研修カリキュラムを設計してくれる点が特徴。事前ヒアリングで自社の課題や受講者のレベルを詳しく把握したうえで、必要な内容に絞った研修プランを提案してもらえます。そのため、「難しすぎて使えない内容」「自社には不要な内容」が省かれ、短期間で実践的なスキルを習得することが可能です。オンライン受講やeラーニングにも対応しており、現場の業務と両立しながら柔軟に受講できるのもメリットです。
DX・AI分野での社内人材育成を検討中の企業は、ぜひ以下のリンクからチェックしてみてください。
②人材派遣会社を利用する
その場しのぎになる可能性もありますが、人材派遣会社から必要な人材を派遣してもらうことも対策の1つです。派遣社員であれば、募集や面接にかかる時間を削減し、即戦力となる人材を短期間で確保できます。
例えば、繁忙期だけ追加の人員が欲しい場合や、専門スキルを持つ人材が一時的に必要な場合など、派遣会社を通じて条件に合う人材を紹介してもらえば人手不足を補えます。派遣社員は派遣会社との契約で柔軟に就業期間を調整できるため、プロジェクト単位や季節変動にも対応しやすい点がメリットです。
③コンサルティング会社を導入する
人手不足の原因分析や解決策の立案について、専門のコンサルタントの力を借りることも有効です。組織人事や業務改革に強みを持つコンサルティング会社であれば、第三者の視点で自社の課題を洗い出し、適切な解決策を提案してくれます。
自社では気づかなかった問題点や改善点を指摘してもらえるため、対策の精度とスピードが向上するでしょう。例えば、人事・採用コンサルティングを導入して採用戦略や定着施策の見直しを図ったり、業務プロセス改善コンサルに依頼して無駄の削減やDX推進プランを策定したりするケースがあります。外部の知見を取り入れることで、自社だけではない発想が生まれ、結果として人手不足問題の解決につながることが期待できます。
人手不足の解決策についてのまとめ
人手不足の問題は一朝一夕で解決するものではありませんが、原因を解明し、適切な対策を積み重ねることで改善は可能です。本記事では、採用・定着・業務効率化・経営戦略の観点から合計12個の具体策をご紹介しました。
自社の課題に合致する施策から優先的に実行し、効果を測定しながらブラッシュアップしていきましょう。また、自社だけで対応が難しい場合には、人材派遣の活用や専門コンサルへの相談といった外部リソースの活用も視野に入れることが重要です。 大切なのは、人材を企業の財産と捉え、長期的な視点で投資・育成していく姿勢です。
