日本の各企業でDXが進んでいますが、中でも土木業界はDXの余地が大きく、さまざまなアプローチで業務のデジタル化を進めていく必要があるでしょう。
また、土木業界におけるDXの中心となる技術の一つとして、CIMが挙げられます。
CIMの導入は具体的に、土木業界へどのような恩恵を与えてくれるのでしょうか。
この記事では、そんなCIMが土木業界へどんな役割を果たすのか、なぜ土木業界にCIMが求められているのかについて、順に解説します。
CIMとは
そもそもCIMはConstruction Information Modelingの略称で、簡単に言えば土木領域で活躍する次世代の3Dモデリング技術です。これまでの3D CADを使った3Dモデリングは、設計図面とは別個に3Dモデルを作成するというプロセスが一般的でした。
しかしこのような土木業務のあり方は、設計図を修正した際には3Dモデルもまた修正したり作り直したりする必要があるなど、業務を二重に進めなければならず、必ずしも効率的なものではありません。何度も修正を重ねるとそれだけ一つの土木プロジェクトで発生するデータも増え、どのデータが最新版なのかがわからず現場に混乱をもたらしてしまう可能性もあります。
このような土木設計業務における課題解決の鍵を握るのが、CIMです。
CIMでは土木プロジェクトに必要なデータを全て3Dモデルのなかに内包することができるので、3Dモデルの情報を呼び出し、設計図を簡単に出力することができ、作成業務の負担を大幅に解消してくれます。
また、土木データの修正にあたっては一つのデータを調整するだけで3Dモデルや設計図面に反映することが可能なので、修正内容をあちこちのデータに反映させる手間がかかりません。
修正情報をログとして残しながらアップデートすることができ、単一のデータを使い続けながら最終稿まで仕上げられるのも便利なポイントです。
CIMの運用に当たっては従来のCADソフトでは行えない作業もあるため、専用のCIMソフトを使うのが一般的です。CIMソフトにもさまざまな種類が種類が登場しており、いずれも土木業務の効率化に大きく貢献できます。
BIMとCIMの違い
CIMと混同されやすい用語として、BIMと呼ばれるものが存在します。
BIMはBuilding Information Modelingの略称で、こちらも3Dモデルの中に情報を内包できる技術として知られる技術です。
発祥 | 活躍領域 | 主なソフト | |
BIM | 海外 | 建築設計 | Revit,ARCHICAD |
CIM | 日本(国土交通省) | 土木設計 | Civil 3D,3DCAD Studio |
もともとCIMはBIMの概念をもとに国土交通省が提唱を始めた概念であり、本質的な部分についてはCIMとBIMで大きな違いはありません。両者の違いとして覚えておきたいのは、運用領域です。
上でも紹介した通り、CIMは土木領域で活躍する3Dモデリング技術ですが、BIMは建築設計分野での3Dモデリング技術です。
厳密に言えばBIMは土木領域の3Dモデリングも含む言葉でもあるのですが、少なくともCIMは土木分野のみを指す言葉であるので、微妙な意味の違いを理解しておきましょう。
CIMが土木業に求められる背景
CIMが土木業において求められている背景には、主に
- 土木業界での若手人材の不足
- 土木業界での熟練労働者の引退
- 土木g妖怪での建設コストの増大
- 土木企業間の技術格差
といったものが挙げられます。土木業界は肉体労働が当たり前であり、労働時間の管理も正しく行われていないなどのイメージが根強く、好んで土木業界を志望する若者は減少傾向にあります。そもそも少子化の影響で若者の数が少なくなっていることも、新しい人材の確保をさらに難しくしています。
土木業は新規人材の確保が遅れているだけでなく、既存のスキルを持った人材の引退も土木業界では徐々に深刻化しています。高齢化の影響で技術を持った労働者が第一線を離れ、これまでの施工品質を維持できなくなってきている土木会社も今後増えていくと予想され、その技術を継承でいる新規人材もいないことから、スキルの継承や企業よしてノウハウを維持することが難しいのが現状です。
また、土木業界は材料費の高騰や物流コストの増大により、建設コストが以前よりも大きくなっている点も悩ましいところです。人材不足により人件費の高騰も進んでいることから、従来の業務プロセスでは土木業における収益の増大は難しく、企業の成長や維持を阻害する要因となります。
土木企業間の技術格差も、近年進みつつあります。
大企業ではCIMをはじめとするさまざまなハイテク導入が進んでいるものの、中小企業では一向に進んでおらず、大企業と中小企業で技術的なギャップが開き、協業が難しくなってきました。
CIM導入によって土木業界の技術格差を是正し、効率的な働き方を共有できる環境を作っていかなければ、企業を存続させることが困難になっていくでしょう。
CIMを土木業に導入するメリット
具体的に、CIMを土木業に導入することでどのようなメリットを企業は期待することができるのでしょうか。ここでは知っておきたい土木へのCIM導入の利点を解説します。
生産性の向上に役立つ
CIMの導入は、土木業における生産性の向上に直接貢献する魅力的な取り組みです。
設計業務を効率化し、現場の負担削減にもつながるため、従来よりも短い工期でプロジェクトを竣工させられたり、少ない人手で業務を遂行できるようになったりといった効果が得られます。
土木業界の人材不足が深刻化している理由の一つに、業務のデジタル化が進まず依然として多くの人手を土木業が必要としていることも挙げられます。
CIMの導入によって従来よりも業務負担を小さくできれば、人材を十分に確保できない場合でもパフォーマンスが低下する心配はありません。
業務品質の改善が進む
CIMの活用によって、土木業務のクオリティを従来よりも高めることにも繋がります。
設計に関するデータをすべて一つのCIMモデルに統合して運用できるため、ヒューマンエラーを回避しながら設計業務を進めることが可能です。
寸法に正確な3Dモデルを使って、複雑なシミュレーションを設計段階で実行し、有効性の高い修正を行ったり、施工段階での手戻りなどを解消して、スピーディで狂いのない施工業務の遂行に役立てたりできるでしょう。
データ管理を効率化できる
CIMモデルに設計データを統合することで、土木データ管理を従来よりも効率化できるのもメリットの一つです。これまでは設計図と3Dモデルを別個に管理するのが当たり前で、それぞれの土木データを設計段階や施工段階、そして維持管理においてバラバラに管理しなければなりませんでした。
一方でCIMモデルは、設計段階で使用したものを以後の工程においても半永久的に使い続けることができるため、非常に便利です。何度も設計図や3Dモデルを作成し直す手間や正しいデータを探す負担から解放され、業務負担の削減やコスト削減を実現します。
さらなるハイテク活用のきっかけになる
CIMの導入をきっかけに、土木領域でのさらなるハイテク活用を推進することもできるでしょう。CIMモデルは極めて正確に土木プロジェクトを描画できるので、専門的な知識のない関係者にも感覚的にビジュアルで情報を伝えることができるようになりますし、施工現場におけるVRやARを使った効率的な作業も促します。
さらに、土木業の維持管理においてもCIMモデルを導入することで、点検や補修工事の効率化を実現可能です。設計当初の図面を維持管理業務にも提供して、点検が必要な箇所や正しい耐用年数の把握、補修工事の品質向上などに役立てられるでしょう。
土木にCIMを活用している事例
土木業にCIMを適用している事例はすでに複数登場しており、いずれのプロジェクトにおいても一定の成果をもたらしています。ここでは実際の導入事例を確認しながら、自社に適した活用方法を検討しましょう。
CIMを使った地元住民への説明の事例
姫路管内河川海岸事業では、CIMモデルを使って地域住民への説明を行うことで、従来よりも短い期間で土木プロジェクトへの理解を得ることに成功しています。
これまでは土木プロジェクトの必要性などを共有するため、地域への説明に数日を必要としていたところ、CIMを使って正確な3Dモデルを使いながら説明を行うことで、1日程度にまで短縮することに成功しました。
CIMを使った数量算出の効率化の事例
旧北上川における右岸河川構造物の設計業務においては、CIM導入によって土木作業負担の削減に成功しています。CIMモデルを活用した数量算出を行うことで、従来の土木手法よりも素早く算出を行えるようになっただけでなく、その品質の向上にも繋がりました。
土木にCIMを適用する際のポイント
土木業にCIMを導入する上でポイントとなるのが
- 土木に関する自社課題を正しく把握する
- 人材確保を進める
という点です。CIM関連のソリューションにはいくつかの種類があるため、自社課題の解決に適したものでないと、期待しているような導入効果や費用対効果は期待できません。
まずは自社課題を洗い出し、どんな課題をどのように解決すべきなのか、検討しておきましょう。
また、CIMを扱うためには土木のノウハウに加え、専門のスキルが必要となるため、既存社員のCIM研修を実施したり、新しくCIMを扱える人材を確保することも重要です。
CIM人材は近年需要が急速に高まっているため、早めに人材確保に向けて動き出しておきましょう。
土木とCIMについてのまとめ
この記事では、土木業界にCIMが求められる背景や、CIM導入によって得られる具体的なメリット、土木へのCIM導入に際しておさえておきたいポイントについて、解説しました。
CIMは今後土木業界には欠かせない技術となると考えられており、遅かれ早かれ導入を進めることとなるでしょう。早い段階からCIM運用に向けた準備を進め、自社課題の解決に取り組むことが大切です。